令和の時代になって初めての新年、あけましておめでとうございます。
今年の干支は60年に一度の庚子(かのえね)の年に当たります。庚子は昔から西暦1600年の関ヶ原の合戦等、大きな変革のあった年が多いそうで、60年前の1960年は、アメリカでジョン・F・ケネディが新大統領となり、日本でも池田内閣が誕生して所得倍増計画が発表された年でした。
眼科を含む医療界においても庚子の今年、新たな変革の芽が生ずることを期待しています。

例年、新年のご挨拶として干支の動物の眼についての説明をしていますが、今年も干支であるネズミの眼について、お話を致したいと思います。
ネズミは夜行性で夜盛んに動き回るので、夜目が効くイメージがあるかと思いますが、実際は霊長類(ヒトやサル)以外の哺乳類と同様、視力が悪く色の識別能力も低いのです(夜動き回れるのは、触覚や嗅覚などが非常に優れているからです)。ネズミの視機能が悪いのは、霊長類の網膜に存在する物の形や色を識別するのに重要な黄斑部が、他の哺乳類と同様ないためです。
しかし、黄斑部がないこと以外は、ネズミの眼球の構造はヒトに極めてよく似ています。これは、地面を這い回っていたネズミの祖先が約6500年前(白亜紀末期)樹上生活をするようになり、果物や昆虫を食べるようになって最古の霊長類と言われているプルガトリウスに進化してきたためです。従って、ネズミはウシやブタ、イヌなどよりもはるかに遺伝的にヒトに近い動物となります。
ネズミは繁殖力が強いこともありますが、遺伝的にもヒトに近いため動物実験によく用いられ、世界中で研究に使用されるネズミは年間2500万匹にものぼるとされています(疾病に関わる遺伝子は90%がヒトとネズミで一致します)。また、動物実験に使われるネズミにはハツカネズミを品種改良した小型のマウスとドブネズミを改良した大型のラットがありますが、小型で取り扱いやすいマウスがよく使われています。
ネズミを用いた動物実験では腹腔内に薬剤や抗原を投与した後、採血してその影響をみることが多いのですが、採血方法には尾静脈や足根静脈から注射針で採血をする方法と、眼の後ろにある眼窩静脈叢を細いガラス管で穿刺して毛細管現象で採血する方法等があります。眼から採血するのはかわいそうに思えますが、血管から注射針で採血するよりも簡単で多量の血液を採取することができますので、免疫学の実験などでこの方法がよく使われます。

最近のニュースで市販の液体のりの主成分であるポリビニールアルコールを用いると、培養の難しかった白血病の治療等に使う造血幹細胞を、大量に培養することが可能であるということが報道されました。またこの液体のりの成分を用いると、外科療法、化学療法、放射線療法、免疫療法に続く第5のがん治療法と呼ばれている「ホウ素中性子補足療法(BNCT)」の治療効果を劇的に向上させることも分かってきました。近年、再生医療や生物学的製剤を用いたガン治療等、非常に高額な医療が注目を浴びることが多いのですが、日本発の安価な医療というイノベーションの波が広がっていくことを願っています。